おいしいコラム

缶詰博士、おいしい缶詰の秘密を探る

缶詰博士 黒川 勇人
缶詰博士 黒川 勇人

1966年福島県生まれ。日本缶詰協会公認の缶詰博士として、様々なメディア出演や執筆活動で活躍。日々世界の缶詰を食している世界一の缶詰通。
著書に「缶詰博士が選ぶ!「レジェンド缶詰」究極の逸品36」(講談社+α新書)、「旬缶クッキング」(共著・春風亭昇太 ビーナイス)など。

シェフたちも認める!
ハイクオリティの料理素材と同じ工場でつくるグルメ缶詰。
製造ライン潜入レポート

こんにちは。
缶詰博士・黒川勇人です。

10月10日は「缶詰の日」、もちろん季節は食欲の秋というわけで、
いつにも増して、缶詰を食べているわけですが、最近、特に強く思うんです。

グルメ缶詰が、どんどん「おいしく」なってますよね!

それも、並みのおいしさのレベルではなく、

一流レストランの味と変わらないクオリティのものも!

そんなことを秋の風に吹かれ考えていると、
ある日、明治屋さんに試食のお招きをいただいたんです。
食いしん坊の私が、喜び勇んでまいりますと、

そこには、
おいしい缶詰「牛肉のビール煮(カルボナード風)」と、
白いお皿に盛られたメインディッシュの牛肉のビール煮が。

こちらは、
おいしい缶詰「牛肉のビール煮(カルボナード風)」。

そして、こちらは、
プロのシェフたちがのレストランの料理素材として使用している
牛肉のビール煮を調理したもの!

あたりに漂うおいしそうな香りに耐えきれず、
ひとくち食べてみると…

美味しい!

が、しかし、ここで私の舌先にピンとくるものがあったのです。

この味と食感、
おいしい缶詰「牛肉のビール煮(カルボナード風)」と
共通点があるような気がする。

と、その時、驚きの情報を聞いてしまったのです。

それは、
おいしい缶詰「牛肉のビール煮(カルボナード風)」は
このプロのシェフたちがレストランで料理素材として使用している牛肉のビール煮と
なんと!同じ工場でつくられている! という事実。

な、な、な、なんということ!

だからどっちも、こんなに美味しいのか!

一体どんな工場でつくられているのか知りたい。

そういう欲求を明治屋の社員に打ち明けたら、意外にも、
「では一緒に製造現場へ行きましょうか」とのこと。

「牛肉のビール煮(カルボナード風)」の製造ラインを
取材させてくれるというではないですか!

「本当に秘密の部分は公表してはいけませんよ」
と、怖い顔で釘を刺されたのは内緒です(微笑)

ということで、以下はぎりぎりまで秘密に迫ったレポートをお届けします。

株式会社いちまる

こちらの工場は洋食が得意で、プロが使う加工食材、
例えばローストビーフや合鴨のローストなどを造り、
ホテルやレストランなどへ提供しています。
缶詰製造はそうした食品事業の一部なのです。

製造ラインに潜入!

牛肉のビール煮(カルボナード)はフランスやベルギーで食べられている定番料理。
その名の通り牛肉をビールでコトコト煮込むのですが、
ビールの苦みはそれほど感じられず、それよりも独特のコクが出てくるのが魅力です。
でも、日本ではまだマイナーな料理ですね。

ソースの製造が始まった

原料のビールがどんな種類か訊いてみたら、
何とキリンのラガービールを使うというから驚きました。
てっきり、仕入れ値の安い業務用ビール(よく判らんが)を使うのだと思い込んでいたからです。

「こ、これは公開してもいい情報ですか?」

明治屋のK氏に確認するとOKというではないですか!
けっこう重要な秘密だと思いましたが、OKだというのだから公開してしまいましょう。

そして、K氏の機嫌がいいうちに、たくさんの秘密を訊いておくことにしました。

使うビールはキリン・ラガービール!
小麦粉とパン粉を合わせたもの。よく混ぜるのが大事

業務用の大きな釜というか鍋というか、
そういう機械でまずみじん切りにした玉ねぎを炒め(加熱時間と温度が決まっている)、
甘みが出てきたところに小麦粉やパン粉、ビール、マスタード、カラメルなど、
ソースに必要な材料を計量しながら投入。煮詰めていきます。

マスタードは仏ブルゴーニュ地域のディジョンマスタード。
一級品といわれているマスタードですね。
我が家ではもったいなくてチビチビ使っているそのマスタードを、
惜しげもなく投入するのであります。
何と贅沢なことでありましょう。

ソースの原料をシノワ(漉し器)で漉す。作業が緻密

そうして出来上がったソースを牛肉と一緒に缶に詰めるわけです。
牛肉は別の作業場で下ごしらえが済んだものなのですが、
実は、下ごしらえに秘密がありました。

その方法とは「真空調理」という調理方法。
調理に使う道具は、鍋や釜やフライパンではなく、なんと耐熱フィルムなんです。

まずは、肉を耐熱フィルムに入れ、
中の空気を抜いて真空状態にするところから調理が始まります。
そして、それを低温加熱することで肉が固くなるのを防ぎ、
同時に肉汁も逃さないという最先端の調理法であります。

これは絶対秘密事項だと思いましたが、
K氏が公開してもいいというので公開しちゃうのであります!

ひと口大にカットした牛肉を手で詰める。そのまま食べたいくらいだ
肉の重量を揃え、偏りがないよう整える。愛情も込められているのだぞ
先ほど造っていた特製ソースを注入
缶内の空気を抜きつつ底フタを装着、密封する
密封された缶詰を数百缶まとめて圧力釜へ入れる。この加熱が最後の調理であり、同時に加熱殺菌も行われる
冷却を終えれば缶成!

「おいしい缶詰」は、明治屋の商品ですが、同社が製造しているわけではありません。どこが製造しているかというと、今回の取材レポートのように、各地にある缶詰メーカーが担っているのであります。

日本には缶詰の製造請負をするメーカーが200社くらいあって、それぞれ魚介類が得意なところ、肉類が得意なところ、フルーツだけに特化しているところなど、専門分野を持っています。

「おいしい缶詰」は、明治屋の開発担当者が各社に「こんな新商品を考えてるのですが、そちらで造れそうですか?」と持ちかけるところから生まれるグルメ缶です。

今回の工場見学のおかげで、新しいメニューの発想力と、それに応える製造のプロ。そのマッチングこそが「おいしい缶詰」の美味しさの秘密だと、よくわかったのであります。