1966年福島県生まれ。日本缶詰協会公認の缶詰博士として、様々なメディア出演や執筆活動で活躍。日々世界の缶詰を食している世界一の缶詰通。
著書に「缶詰博士が選ぶ!「レジェンド缶詰」究極の逸品36」(講談社+α新書)、「旬缶クッキング」(共著・春風亭昇太 ビーナイス)など。
2018年某月某日。明治屋さんの商品開発M氏から連絡が来ました。
「実は国産鶏のオリーブ油漬をリニューアルします。
工場で試作するので一緒に行きませんか?」
おいしい缶詰の「国産鶏のオリーブ油漬(洋風アヒージョ)」といえば、
2014年に同シリーズが発売されたときからの初期アイテムで、常に人気商品です。
もう缶成(完成)の域に達してると思っていたのに、
一体どこをリニューアルするのだろう。
知りたい。すごく知りたい...
ということで、一も二もなく同行。
同商品の製造を担っているのは、新潟県魚沼市にあるホリカフーズさん。
日本では数少ないコンビーフメーカーとしても知られており、
明治屋MYブランドのコンビーフも同じ工場で造られているのです。
つまりは肉のプロということ。
国産鶏のオリーブ油漬は、サブタイトルに「洋風アヒージョ」とも書いてあります。
にんにくや唐辛子を利かせたオリーブ油で食材を煮るスペイン料理ですね。
その特製オリーブ油をつくる工程から見せてもらいました。
ニーダーという加熱&かくはんできる機械に、まずはオリーブ油を入れます。
もちろん高品位なオリーブ油です。
ここにローズマリー(ホール)、赤唐辛子を入れてゆっくりかくはん。
ここまでは従来と同じ手順だそうですが。
リニュールにあたって、もうひと手間が加えられていました。
すりおろしにんにくを加えるのがリニューアルの肝でした。
というのも、従来の製法では、にんにくは、直接、塩と合わせて鶏肉に擦り込んでおり、
そうすることで、にんにくの風味が鶏肉の中まで染み込んでいたのですが、
今回はオリーブ油にもにんにくを加えることで、
より風味を際立たせたいということでした。
「でもにんにくの使用量は今までと変わりません」
と、明治屋のM氏は説明します。
「今まで下ごしらえに使っていたにんにくの一部を、オリーブ油用に回しています」
ふむふむ...。つまり、にんにくのエッジを立たせたいけど、単に増量したらくどくなる。
そこで全体量は変えずに工程だけを変更したと、そういうことになるのですな。
こういう、細かすぎて一般には伝わりにくい部分(失敬!)までこだわるのが、
いかにも「おいしい缶詰」らしくて好き。
ということで、
ローズマリー、赤唐辛子、にんにくが入ったオリーブ油を加熱しながらかくはん。
最後に目の細かい木綿布を通して濾過すれば、ようやく特製オリーブ油のできあがりです。
隣の作業場に移動すると、原料の鶏肉が運び込まれてきました。
あらかじめにんにくと塩を擦り込み、
さらに2日間寝かせてあったというもの。
テレビの料理番組なんかでよくありますね。
「はい、こちらが20分浸けておいたものです」みたいな場面。
しかしこっちは20分どころか、2日間も寝かせてあるのです。
レベルが違うのです。
何というかもう、商品開発の執念みたいなものを感じました。
2日間大事に育てた(?)鶏肉ちゃんを詰めていきます。
弾力のあるむね肉とうまみの強いもも肉を半分ずつ詰めるという気配りが嬉しい。
鶏肉の重量を調整したところで、さっきの特製オリーブ油を注入。
この段階で早くも美味しそうな匂いが漂っている。
ちょいとつまみたくなるのをぐっとこらえました。
あとはフタを被せて、中の空気を抜きながら密封。
外側を熱湯できれいに洗ってから数百缶まとめて金属製のカゴに入れ、
レトルト殺菌釜という大きな釜で加熱します。
最後に規定時間で冷却すれば、
ようやく「国産鶏のオリーブ油漬(洋風アヒージョ)」の缶成です。
加熱殺菌には時間がかかるので、一旦外出して昼食です。
工場の周囲には水田が広がり、折しも苗を植えたばかり。
蛙の合唱が聞こえてくるあたりは、
さすが米どころ魚沼市であります。
白飯たっぷりの昼食を終え、工場に戻ってしばらくすると、
ついに試作品ができあがりました。
ホリカフーズと明治屋の担当者がずらりと揃ったところで、
リニューアルした試作品を開缶。
色合い、鶏肉の大きさ、バランスなどを検分しつつ、
従来品も開けて比較します。
んー、香ばしい匂いが会議室を満たしております。
たまりません。
みなさんの評価が終わったところで待望の試食タイム!
リニューアルしたほうは、
ひと口噛んだ瞬間ににんにくの風味がドン! と立ち上がります。
従来品と比べるとその違いは明らか。
でも前述したように、
にんにくの量を増やしたわけではないのです。
手順を変えただけでこれだけの変化が起こるなんて、
商品開発というのは奥が深いですねぇ。
「おいしい缶詰」は、おおむね年に2回ずつ新商品を開発しています。
しかしそれだけでなく、
既存商品もこうしてリニューアルしているわけです。
常に味をチェックしてブラッシュアップを怠らないその姿勢、
まさに缶嘆(感嘆)に値しますね。
国産鶏のオリーブ油漬(洋風アヒージョ)
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